小川哲『5×5イイ顔』展 2018年7月5日(木)~7月17日(火)

プリント

小川哲『5×5イイ顔』展――ポップアイコンの部分と全体                      久米泰弘(書籍編集者)

原子は、私たちが日常経験するような直接的に観察できる「物」ではなく、その働きしか見ることができない。―― W・ハイゼンベルク『部分と全体』より要約

 小川哲さんの描く絵は、ご覧のとおり、きわめて物理的にできています。
 5センチ×5センチの正方形を、タテヨコ5つずつ、合計25個をグリッド状に配置し、そのひとつひとつを変形させ、組み合わせて、一点のまとまりをつくる。25個のさまざまな形のセレクションとコンビネーションが、今回の展覧会では、ポップアイコンたちの「イイ顔」を構成しています。
 冒頭の言葉は、ノーベル賞物理学者のW・ハイゼンベルクによるものですが、小川さんの絵は、25個の「部分」の組み合わせが「全体」を成り立たせており、また実際に描かれたポップアイコンの多くは、ふだんから「直接的に観察できる」人たちではなく、音楽や映画といった作品における「働きしか見ることができない」人たちです。
 確かに、「物」として観察できる〇や△や□によって表現された「イイ顔」は、絵それ自体としては、すべての人に開かれている作品です。しかし、それらが誰かに所有され、部屋に飾られたりTシャツになったとき、人はそれらの「働き」にしか関心を寄せない。それが現実ではないでしょうか。すなわち、あらゆる芸術作品とは、現実にはその「働き」こそが、本質なのだということです。
 それはたとえば、音楽でも映画でも、マンガなどの書籍でも同じ、レコードやDVDや本は、そこにあるだけでは、ただの「物」にすぎません。しかし、それを実際に聴いて、観て、読んで、その「働き」にふれたとき、はじめて感動が生まれます。小川さんは、この「5×5」という試みを、これまでZINEを制作することで続けてきたイラストレーターですが、そうした「働き」を数十ページの冊子にまとめ、それ自体が作品であるような「物」をつくってきた作家とも言えます。
 そんな小川さんの活動のユニークなところは、傍らに、岡村靖幸のCDジャケットなどで知られる、アートディレクターの小林忠浩さんの存在があることです。
 小川さんが組み合わせた25個の形を、デザインという観点で、小林さんが常に批評し、それを参考にして、作品を仕上げていく。芸術家といい作家と呼ばれる人たちは、往々にして我が道を突き進む、ある意味、気のふれた孤高の存在ですが、小川さんは、まず小林さんという「批評家」を身近に設定し、その目を通して、みずからの作品を捉え直そうとします。今回の展覧会でも、そうして自分の解釈を客観的に、何度も微調整しながら、作品を仕上げていきました。
 まだこの展覧会が準備段階だったとき、そんな小川さん、小林さんには、生涯忘れられない出会いがありました。特殊漫画家を自称するまごうことなき芸術家、根本敬さんとの邂逅です。
 根本さんはそのころ、ピカソの『ゲルニカ』とほぼ同サイズの『樹海』という作品を描き上げたばかりで、ふたりはその絵にショックを受けます。そして遠慮がちに、「5×5 ZINE」と小川さんの描いた細野晴臣とルー・リードの顔をプリントしたTシャツを手渡すと、とても気に入ってくださり、さまざまなイベントでそれを着た根本さんの姿は、広くSNSで拡散されもしました。
 そこで、今回の展覧会のタイトルでもある「イイ顔」という根本さんオリジナルの言葉を、ご本人の許可を得て、タイトルに頂くことになったわけですが、さて――。
「イイ顔」とは、何なのか?
 たとえば、ジャニス・ジョプリンと勝新太郎は、女と男という以上に、職業も違えば表現も違います。生きた場所も言語も違う。しかし、「イイ顔」という捉え方なら、おそらくは誰もが、「ナルホド、そうだ!」と納得する力を持っているのではないでしょうか。
 これは一体、どういうことなのか? ハッキリ言えるのは、彼らは、その人生の「働き」によって、みずからの顔を獲得したということです。それら「イイ顔」こそは、世に選ばれて「物」として存在できる、ポピュラー・アイコンなのです。
 会期中の7月7日(土)七夕には、「イイ顔」根本敬さんをお迎えして、トークショウなどのイベントも予定しています。また、連休中日の15日(日)には、美術作家の伊藤桂司さんによるプログレに特化したDJもあります。もちろん、「5×5 ZINE」はもとより、Tシャツやトートバッグ、バッジなどもご用意しています。
 小川哲『5×5イイ顔』展――ポップアイコンの部分と全体。
 梅雨の明けるさわやかな初夏のころ、どうぞご家族で、またご友人お誘い合わせのうえ、神田TETOKAまで、世界中のポップアイコンの、あなたにとっての「イイ顔」を探しにいらしてください。お待ちしています。

t_nemoto_ilst

【会期内イベント】

・7月5日(木)19:00~ オープニングパーティ

・7月7日(土)16:30~ 根本敬ライヴ・ペインティング「あなたの顔を『イイ顔』にして差し上げます」
先着10名限定 画料10,000円(トークショウ入場無料特典付。ワンドリンク別)
 
先頃、ピカソの『ゲルニカ』とほぼ同サイズの大作『樹海』を発表した根本敬画伯が、オリジナルミックスのポンチャックをかけながら、あなただけの似顔絵をフルカラーで描きます。
要望によって釜ヶ崎の巨匠、其風画伯のメタリック調もあります。

・7月7日(土)19:00~ 渡韓直前! 根本敬スペシャル・トークショウ「『イイ顔』とは何か?」
聞き手:久米泰弘(書籍編集者)入場料1,500円(ワンドリンク付)
 
1980年代、「イイ顔」という言葉を生み出し、みずからその発掘にいそしんだ根本敬。さらなる「イイ顔」との出会いを求め、ディープ・コリアに旅立つ直前に、山谷寿町釜ヶ崎などで採取した「イイ顔」たちの哲学的なエピソードなどを伺います。

・7月13日(金)19:00~ DJ:服部全宏「オールドハウス・ナイト」 入場無料
1990年、ハウスミュージックの創始者ラリー・レヴァンと共演した男、ex-CLUBKING服部全宏によるオールドスクール・ハウスミュージックの選曲をお楽しみください。ニューヨークのクラブ〈パラダイス・ガレージ〉やシカゴの〈ウェアハウス〉などで、盟友フランキー・ナックルズとともに一時代を築いたラリー・レヴァンの、当時のオリジナルカットなども蔵出しします。

・7月14日(土)19:00~ 小川哲・小林忠浩トークショウ「ポップアイコンの『イイ顔』をめぐって」
聞き手:久米泰弘(書籍編集者)入場料1,200円(ワンドリンク付)
 
展覧会の主軸であるおふたりに、これまでの活動から展覧会に至る経緯、そしてこれからの展望などについてお話を――、などと言うと、じつにマジメな教育番組のようですが、さに非ず。好きなことをやって好きに生きる。この究極の生き方をいかにして実践するか、その苦労と回り道の連続、ちょっとした秘訣などを伺います。

・7月15日(日)19:00~ DJ:伊藤桂司「スペシャルプログレ・ナイト」 入場無料
絵描き、アートディレクター、レコードコレクター、大学教授、愛妻家、さまざまな肩書きを持つミュージック・フリーク、伊藤桂司によるヘンな前衛音楽、プログレの選曲をお楽しみください。絵とレコードとスクラップで埋め尽くされた、カオスのなかから聴こえてくるのは、誰がどんな発想でつくるのか、奇天烈にして妙、ヘンテコリンな音楽。「5×5イイ顔」展のために、オリジナルの選曲でお届けします。

・7月16日(月・祝)14:00~ 小川哲「『イイ顔』キッズデー」&「CMUR FOOD TRUCK」 入場無料
本展覧会の小川哲と一緒に「イイ顔」を描いてみませんか? 子ども連れでの参加をお待ちしています。また同時に、自家製天然酵母のナポリピザ「CMUR FOOD TRUCK」も特別参加。本格的な薪釜を使った久村さんちのオーガニック・ピザもお楽しみいただけます。おいしいピザを食べながら、ハサミと色紙を使って、自分だけの「イイ顔」をつくる小川先生の楽しいワークショップです。

・7月16日(月・祝)19:00~ 小川哲・小林忠浩・小柳淳嗣「5×5 Radio Show」 入場無料
テーマ:“90’s邦楽とその先の「イイ顔」” スペシャルゲスト:ムーグ山本(Buffalo Daughter)

ラジオ(Radio)に川、林、柳とくれば、3つの小(Show)がそろい踏み。「5×5『イイ顔』」展の音楽バージョン。スペシャルゲストにムーグ山本さんをお迎えして、90年代の邦楽シーンをふり返りつつ、好きな音楽を好きなだけ、楽しいおしゃべりとともにお届けします。90年代にアツい音楽生活をすごした3人と、そのシーンのなかで実作者として活動したムーグ山本さんの3+1で、どんな化学反応が起こるのか、驚くような裏話が聞けるかもしれません。乞うご期待!

・7月17日(火)18:00~ クロージングパーティ「5×5 Radio Show」×「Where the Music?」
「5×5 Radio Show」とTETOKAレギュラーイベント「Where the Music?」が夢の共演。「夢のような」ではなく「まさに夢」。全員眠る準備をしたうえで、ウルサイ子守歌をお届けします
http://tetoka.jp/archives/5804
【LIVE】バンドウジロウ
【DJ】白根ゆたんぽ/寺門克也/池田隆佑/DJおにぎり/Shohei Fujimoto
【FOOD】catering unit つぎはぎ
__________________________________________________________

【作品展示作家】
小川哲(おがわ・さとし)
1972年島根出身。イラストレーター。大阪府立大学経済学部を6年かかって卒業。3年間のフリーター生活。上京後セツ・モードセミナーを5年かかって卒業。5年間の音楽制作会社勤務。その後、現在に至るまでフリーランス。常に回り道の多い寄り道人生を歩み、ミュージシャンのポートレイトを描いて音楽を紹介する「5×5 ZINE」の制作を継続する。
Satoshi Ogawa WEB:https://satoshiogawa.amebaownd.com/
5X5 WEB: https://5x5zine.tumblr.com/

小柳淳嗣(映像制作)
映像作家。武蔵野美術大学非常勤講師。音と映像による表現を中心に、ミュージックビデオ、メディアアート作品の制作、イベントのオーガナイズ、ステージデザインなどを手がける。
http://koyanagi.celescape.org
__________________________________________________________

展覧会概要
展覧会名:小川哲『5×5イイ顔』展 Satoshi Ogawa exhibition |5×5 EE KAO
会期:2018年7月5日(木)~7月17日(火)
【オープニング∙パーティ:7月5日(木)19:00~】
営業時間:16:00-23:00
休廊日:水曜日
イベントのある日は営業時間が変更となる場合がございます。
TETOKAホームページ、フェイスブックをご確認下さい。
会場:TETOKA
東京都千代田区神田司町2-16 楽道庵1F
Tel: 03-5577-5309
観覧料: 1ドリンクご注文制

2018-07-04 | Posted in Exhibition, NewsNo Comments »